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見習い魔術師

見習い魔術師

     第五章  

中庭で、フィリルが朝食を並べていると、森の中から可愛らしい声が聞こえてきた。
「フィーリールー!!」
声のした方を振り返ると、15、6センチ程の随分可愛らしい少女が。
もちろん、リースである。
「リース!!どうしたんですか!?こんな時間に・・・。息も荒いでるし」
驚いたようなフィリルの言葉を後目に、リースの第一声は。
「フィリルのバカッ!!人が、何十分も探してたのに、どこにいんのよ!!」
見事に怒声を浴びせかけられたフィリルは、意味が分からず、首をかしげた。
「だいたいねぇ!捜しまくったんだからっ、息だって、荒れるに、決まってるでしょぉぉっっ!!」
「す、すみません、つい・・・」
素直に謝るも、それでもリースの怒りは解けないらしい。
「つい、じゃないわッ!!だいたい、何なのよこの森はっ!!無駄にデカイ木が多すぎんのよッ!!第一、こんなにデカくて何の意味が・・・」
とりあえず、あるもの全てに文句を言おうとでもいうのか。リースは、手当たり次第にいちゃもんを付け始めた。しかし、それもいつものこと。そんな事に
フィリルがいちいち耳を貸すはずも無く、いたって冷静にリースに声をかけた。
「あの・・・。とりあえず、何があったのか聞いてもいいですか?」
その言葉に、怒鳴りつづけていたリースはやっと我に返った。
「そうそう!それよ!気になる噂を聞いたのよ!!」
「噂?」
フィリルは聞き返した。妖精族などの噂には、とても貴重なものが含まれていたりするため、ゴシックむげ無碍(むげ)には出来ないのだ。
「それで、どんな?あなたが知らせに来てくれるほどなんですから、何か大変な事なんでしょう?」
しょっちゅう顔をのぞかせるリースのために、いつのまにか準備された専用のカップにハーブティーを注ぎながら、フィリルは先を急かした。
「それがね・・・。あ、ありがと~vv」
フィリルから渡されたカップの中身をすすって、リースは嬉しそうに言った。
「ぷはぁ~。フィリルの入れてくれるお茶っておいしいのよねぇ~vvそれだけでも来る価値があるわvv」
あまりにも幸せそうに言うリースに、フィリルは苦笑をもらした。
「ありがとう、リース。光栄です。コレ、あなたがくれたハーブなんですよ」
その言葉にリースはまじまじとカップを見つめた。
「うそ、ホントに!?・・・へーえ、こんなにおいしくなるもんなのねぇ・・・」
感心しているリースに、フィリルは話を再び急かす。
「あの、噂っていうのを、教えていただけますか?」
リースはやっと慌てたように話を戻した。
「そうだった!!それが、大変なのよ~!!」
「大変?」
ゴシックおうむ鸚鵡(おうむ)返しに聞くフィリルに、リースは激しく頷いた。
「いったい、何が起こったんですか!?」
リースの雰囲気から、何かとんでもない事が起こったと察して、フィリルはリースの一言一言に集中する。
「そ、それが、その・・・、森が・・・」
しどろもどろになって言うリースに、フィリルは声を落ち着かせて言った。
「森が、どうしたのですか・・・?」
「森が・・・、森が、許したって・・・!!」
フィリルは目を見張った。
「許したって・・・、「森」がですか!?」
「と、とりあえず、伝えておこうと思って・・・」
フィリルは深く息を吸い、ゆっくりと吐いた。
次にはもう、その声に動揺は感じられなかった。
「ありがとう、リース。師匠には伝えておきます。けれど、森が許したのなら、大丈夫でしょう。森は今まで判断を誤ったことはありませんから」
「でも、もし・・・」
それでも心配そうなリースに、フィリルは優しく微笑んだ。
「大丈夫、ですよ」
それにつられるように、リースはやっと微笑んだ。
その花がはじけるような微笑みは、緊迫したような空気を解きほぐした。
「そ、だね。森が間違えるわけないもんね」
リースはそう言うと、座っていた食卓から腰を上げた。
「よし!んじゃ、私はみんなに他の噂がないか聞いてくるね!」
「お願いしますね」
フィリルは微笑んだまま頷いた。
「このリースちゃんに任せなさいって☆じゃ、後でまた来るね」
「あ、リース・・・」
ふわり、と飛び上がり、森に入ろうとしたリースを、フィリルが不意に呼び止めた。
「ふえ?なーに、フィリル」
「これを」
差し出されたのは指輪ほどの大きさの細い銀糸のような物で編まれた輪。
しかし、それはリースの首周りより少し大きいくらいだ。
「かっわいい~v何?このネックレス・・・」
受け取って首につけながら、リースはフィリルに聞いた。
「魔力(ちから)も編みこまれてる・・・ってか、フィリルに同調してない?」
フィリルは指を一本立てた。
「すぐ来れないと困るでしょう?師匠はまだ寝てますし」
リースはポンッと手を叩いた。
「な~るほどっ!」
「じゃ、頑張って下さいね、情報収集」
リースは空中でクルリと一回転をした。
「もっちろん☆期待しててね~♪」
それだけ言うと、来たときと同じほどの猛スピードで木々の間を抜けていった。
それを見送った後、フィリルの顔の微笑みは消え去っていた。変わりに、そ
こにあるのは、真剣な、物憂げな表情。
(何故、今頃になって・・・?数年前、あの人たちが出て行ってから、
 ただの一度だって、森が人を認めたことなんて事なんて、ないというのに・・・)
答えを求めるように、フィリルは空を仰いだ。

余談

「それにしても・・・」
フィリルは唇に指を当てた。
「ヨシュアもリースも、なんか少しずれてるんですよね・・・。脳天気というか・・・」
フィリルは城を振り返って、ある一点を見つめた。
「いったい、誰に似たんでしょうかねぇ・・・」
深いため息とともに吐き出されたフィリルのつぶやきは、誰の耳にも届くこ
とはなかった。



















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